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私が学生時代に、有吉佐和子さんの書いた「恍惚(こうこつ)の人」とう小説が大ヒットしました。映画にもなって、森繁久彌さんが主役を演じたと記憶しています。

主人公が老人になり、いわゆる「ぼけ老人」になっていった状態を描写し、近未来にはこのような問題が大きく取り上げられることを予言したような小説でした。

私もこの小説を読み、自分にも将来こうなる日が来るのだな、と思ったものでしたが、当時はまだまだ遠い将来のことだと気楽に構えていました。作者はきっと、私たちの属する戦後ベビーブーム世代(第1次ベビーブーム世代のことです)が老人になったころには、日本が大変なことになるよ、と警鐘を鳴らしておられたのでしょう。

後に堺屋太一さんが、私たちのことを「団塊の世代」と名付けてくれたら、ますます話題になりやすい世代となりました。

私も最近、3年間の間に2回脳出血で倒れ、その都度、失認、失行、失書、高次脳機能障害に悩みましたので、自分が「呆(ぼ)けていく」のを実感しました。今もその症状がある程度、続いておりますし、脳腫瘍による右耳の聴力消失もあるため、周りの人たちにはかなり御迷惑をお掛けしていると自覚しております。

有吉佐和子さんの問題提起により、呆け老人問題が脚光を浴び、「痴呆症」という言葉も頻繁に使われるようになりましたが、皆さま、ご存じのように「痴呆」という言葉は差別用語に分類されてしまいましたので、現在は使えません。代わりに登場したのが、「認知症」です。

初めてこの言葉を聞いたときに、私は何だか問題を暈(ぼ)かしているだけのような印象を受け、好きになれませんでしたが、軟弱な私は時の流れに身を任せるように、現在では認知症という言葉になじんでいます。

でも、根が田舎者の老人であるためか、「おれは呆け老人の一人だ、呆け老人で何が悪い! 年取ったら誰でも痴呆の症状が出うるのだ。上品に、認知症と言わずに、呆けている、と言ってくれ」と思っています。

こんなことを言っている私も、16年前に発症した重症心筋梗塞(右冠動脈が根部で途絶)が再発したら、一巻の終わりだろうと覚悟しています。2回の脳出血は心筋梗塞再発予防に服用していた、抗凝固剤、抗血小板剤の影響で起こった付録だというのが患者の私の認識です。

本日までお付き合いくださった房日新聞読者に皆さまには、ほんとうに感謝いたしております。もう少しの間、見守っていただけますよう、お願い申し上げます。

なお、本日の元原稿には、使用禁止用語が入っていますので、房日新聞の忍足利彦記者により、かなり訂正されたものが皆さまの目に触れることと覚悟しております。

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加納宣康 昭和24年8月4日、岐阜県生まれ。千葉徳洲会病院名誉院長

(この原稿は加納医師が、本紙読者のためにボランティアで執筆しています)

6月24日20時00分 542
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