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過労死ライン越えは当たり前だった

最近は国中「働き方改革」という言葉の大合唱です。医師の世界にも「医師の働き方改革」という言葉が聞こえるようになりました。

学会や研究会でもこれをテーマとして、講演会が開かれることも珍しくなくなりました。

しかし、一方で、過労死事件の報道は続いています。これは他の業界でも同様でしょう。

医師の世界では、現在使われている「過労死ライン」という言葉の定義をみて、これを守るなんて不可能だ、と思っている人が多いと思います。労災の過労死が認められる目安は月100時間の残業ということになっているようですが、働き盛りの年齢の医師たちで、月の残業時間が100時間以内という人はほとんどいないと私は思っています。

1日3時間、30日間時間外勤務をしたら、それで90時間になってしまいます。

私の外科医人生を振り返ってみて、それだけの短い時間外勤務で、まともに医師業務ができるとは思えません。夕方までに手術が終わったとしても、その後、ご家族に手術内容の説明をして、切除標本の整理、手術記録の記載、術後の点滴の指示、薬剤の投与などしていたら、すぐに20時、21時にはなってしまいます。

その間も、術後の患者さんの状態チェックのための診察、それに合わせた指示出し、その他の入院患者さんの診察、記録、指示出しなどが続きますから、いつの間にか、深夜になってしまいます。手術予定患者さんおよびご家族への予定手術内容の説明時間をつくるのは本当に大変です。

外科医に限らず、医師の時間外勤務時間が月100時間以内で終わると思っている人はほとんどいないと思います。

そんな中、「日赤医療センター、医師残業、月200時間まで容認」(毎日新聞2018年1月13日)などといった記事をみると、本当にうんざりします。

日赤医療センター(東京都渋谷区)が医師の残業時間を「過労死ライン」の2倍に当たる月200時間まで容認する労使協定(三六協定)を結んでいることが、明らかになったという内容の記事です。医師20人は2015年9月からの1年間で月200時間の上限を超えて残業。渋谷労働基準監督署は昨年3月、センターに協定を順守するよう是正勧告した、と報じていました。正直言って、多くの医療機関が同様のことをしているのではないかと思ってしまいました。

私は是正勧告をしても、現場がそれを実施しているとは思っていません。

本当にそうしたら、実際に医療が回っていかなかっただろうと思うからです。

つい、若いときからの経験から本心を記してしまいましたが、現在の私の病院長という立場では、こういうことを言っては非常にまずいですね。某院ではそういう実態もあるようですが、千葉徳洲会病院では過労死ラインを超えることはありません、と追記させていただきます。

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加納宣康 昭和24年8月4日、岐阜県生まれ。千葉徳洲会病院長

(この原稿は加納医師が、本紙読者のためにボランティアで執筆しています)

18年2月26日 989
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