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最新著作を手にするかわな静さん=房日新聞社

鋸南・中山輝夫さんの戦争体験

「満蒙開拓の夢」聞き取り

戦争体験者からの聞き取りを続け、著作にまとめる活動を続ける、南房総市在住の作家、かわな静さん(81)が、鋸南町中佐久間の中山輝夫さん(92)の体験を聞き取った『満蒙開拓へ進めた国策―獣医師の夢破れシベリア抑留』を出版した。自ら志願して旧満州へ渡った体験だが、これまで取り上げた戦争体験者も一部登場させるなど、一連の反戦著作の集大成ともいえる内容。「これで(著作も)一区切りにしたい」とかわなさん。

かわなさんは日本詩人クラブ、日本児童文芸家協会などに所属する作家。児童文学とは別に、戦争体験者からの聞き取りをライフワークとしている。

これまで山口周一さんの『ひいじいちゃんは硫黄島の兵隊だった』、小原春光さんの『極寒の強制使役にたえて』、押元惟喜(これき)さんの『コレヒドールの落下傘(パラシュート)』、鈴木弘一さんの『十四歳の「満州」』、福原栄夫さんの『軍艦長門に乗り込んで』などを精力的に執筆してきた。戦争をしてはならないという強い思いを戦後世代に伝えたいからだ。

今回は、安房農学校から満蒙開拓団への国策に応じ、ハルビンの満州国立開拓指導員訓練所本科に合格、現地で召集され、シベリア抑留になった中山さんを取材した。

中山さんは「将来、獣医師の資格を取って、佐久間村の酪農を盛んにしたい」との希望を胸に、義勇団の幹部となるための訓練を受け、渡満。嚮導(きょうどう)訓練所で2年間訓練を受けたが、戦況が悪化して、学徒出陣がかかる。機関銃中隊の訓練を受け、旧ソ連と交戦することに。

敗戦で旧ソ連のコムソモリスクの捕虜収容所に入る。劣悪な環境、不衛生な食事、重労働に耐え、帰還することに。獣医師への夢が破れ、ソ連の戦車に追い立てられ、拘束され、シベリア抑留が2年。

舞鶴に上陸後、日本の少年に衣服を盗まれ、落胆する。それでも千葉駅で見知らぬおばさんから、塩のおにぎりを渡され、心が癒やされていく。

かわなさんは、昨年夏から二度ほど聞き取ったが、一冊にするだけの情報量がないため、明治維新から日清戦争、盧溝橋事件などの歴史をたて糸に、ここに中山さんの人生をよこ糸として織り込み、著作をまとめた。

鈴木弘一さん、コレヒドールの押元惟喜さん、硫黄島の山口周一さんも安房の同世代の戦争体験者として、本の中に登場する。聞き取った内容に、中山さんから一部差異があると申し入れがあるため、改訂版も考えているという。

かわなさんは「中山さんは、獣医師になるのだという強い意志があった。そのことをどうしても伝えたかった」と話す。そのうえで「戦争はするものじゃない、と経験者は皆言うが、戦後世代はそれを本気になって聞かない。(戦争体験者の)本当の叫びを聞いてほしい」と、集大成ともいうべき、本に人生の思いを重ねる。

本は税込み800円。館山市の宮沢書店で扱っている。

【写真説明】最新著作を手にするかわな静さん=房日新聞社

8月30日20時00分 473
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